COPETEN-021 家を建てる –その3 土地の契約−
「忙しい時に限って色々重なる」と言う考え方もあるけど、「色んなことが重なってもおかしくないライフステージを生きている」と捉えることもできる。出産・住宅購入・責任ある仕事が襲いかかって来ている30代半ばはまあ、どれもまあそういう試練のタイミングなのだろうと悟りを開きつつある今日この頃。
良いご縁があったかも〜と温めていた土地が今回、無事に契約に至りまして。先日、仲介先の不動産会社立会いのもと契約を済ませて来ました。
住まい系の仕事をしているくせに戸建てや注文住宅の知識はほぼ皆無で、「土地の契約って賃貸みたいな重要事項説明の場かしら、、、」くらいにしか考えていなかったのですが、契約をして見たらなかなか面白いものでした。
9月某日、まだ暑さの残る逗子の某不動産屋にて契約。土地の販売を行なっている不動産会社に仲介してくれた不動産会社の担当者と出向きました。厳かな商談部屋に通されると出迎えてくれたのは、
じいちゃんA(ジャケットを着た爽やか清楚系爺 / 常識人っぽい
じいちゃんB(アロハシャツを着たやんちゃ系爺 / 気難しそう
謎の淑女(ブランドに身を包む年齢不詳 / 自分のネイルを終始注視
というお三方がお出迎えしてくれました。勝手な先入観として、じいちゃんAのような人がお一人でいらして契約をするのかと思っていました。一対一の大将戦だと思ったら、予想外の陣形を組んだ編隊と出会ってしまった感に怯んだのは言うまでもありません。
さて、簡単な契約の流れの説明の後に自己紹介タイム。もちろんお三方は僕が購入しようとしている土地の地主様。しかし、そんなことはわかっている。この3名の関係性が気になってしょうがない!早く、早く自己紹介を!!!と心の中で叫んでいました。
じいちゃんABは4人兄弟の長男次男の間柄とのことで、BさんがおにいさんでAさんが弟でした。80歳のBさんは「都内から車ぶっ飛ばして逗子まで来たんだよ、いやぁ〜逗子は久しぶりだなぁ。あ、ビール飲んで帰りたいから運転変われよ!」あぁ、僕の頭の中で天真爛漫な兄を反面教師にしっかり者に育った弟という構図が瞬時に出来上がりました。ということは、淑女は妹さんでしたかそうでしたか。
じいちゃんB「あ〜、こいつはなんだ、あれ。ヨメじゃなくて、ツレ!ツレだわ。こいつが一番お金とかにうるさいんだわ。わはは!」
嫁じゃなくてツレ、なるほど、承知いたしました。Bさんの隣で不敵な笑みを浮かべる淑女。人の数だけ家族の形はあるのですね。
で、そのあとは重要事項説明の読み上げ、契約内容に対する質疑応答、契約書への押印などとにかく聞いてはハンコを押すの繰り返し。うん千万円のお金がここでやりとりされるわけですし、結構重苦しい空気が続きました。一通り終わり、不動産会社の人が中座した時にふと部屋の空気が緩む感じがあり、Bさんがおもむろに話始めました。
「あそこの土地は、うちの親父が会社員の頃に買ったんだよ。うちの親父は○○(誰もが知ってる大企業)に勤めててさ、夏に使える別荘として買ったんだよな」
あ、僕、別荘じゃなくてガチで日常生活をそこで始めようと思っているんですけど、と思ったことは口にださず、とりあえずBさんの話に耳を傾けます。
「あそこはね、風呂から富士山見えたんだよ。逗子海岸が一望できてね。夏になると家族みんなで行ってひと夏過ごすんだよ。親父は近くの酒場に近所の友達たちと酒樽持ち込んで毎晩どんちゃん騒ぎしてたなぁ。あの頃とはもうだいぶ変わったけど、やっぱり葉山はいいところだよ。自分たちみたいな歳になるとなかなか住みにくくなっちゃうんだけど、君みたいな若い人が住んでくれるのはとっても嬉しいよ。」
はい、なんですかこのいい話の展開〜。
不動産屋さんって当たり前だけど土地を売るのが仕事なわけで、購入希望者がいれば売りたいのが本音だし、悪いことを吹き込むことはしなくても、良いことを伝えようとしますよね。(僕の担当の方は今の仕事の繋がりで紹介された人でもあったので、かなりぶっちゃけてくれましたが
だから、今回の土地を買うにあたって”セールス上の良い話”ばかり聞いていて、自分なりにこの土地を買おうと決めたけど、本当に良かったのか確信を持てず契約の席に着いていたのだと思います。
ただ、そこに住んでいた人の実際の話、昔を思い出して目を細めている顔を見て、ようやく自分が買った土地に満足できた気がします。というか、先人がそこまで言ってくれた土地であれば、楽しくするのは自分次第だなあと。
来年、自分の家が建ったら、僕はこのお三方に迷惑かもしれないけど招待の連絡をしてみようと思っている。なんとなくだけど、Bさんは淑女を連れて車を飛ばして来てくれるんじゃないかって思っている。帰りの運転を誰がするのかは考えて来て欲しいけど。